Science/Research 詳細

高屈折率の改良型透明化液で深部超解像イメージングを実現

March, 15, 2016, 和光--理化学研究所(理研)多細胞システム形成研究センター感覚神経回路形成研究チームの今井猛チームリーダー、柯孟岑国際特別研究員、金沢大学新学術創成研究機構の佐藤純教授らの共同研究グループは、生体組織深部の超解像イメージングを可能とする新しい組織透明化試薬「SeeDB2」を開発した。SeeDB2と超解像顕微鏡[1]を用いて、マウスやショウジョウバエの脳の蛍光イメージングを行い、シナプスの微細な3次元構造を大規模に解析できることを示した。
 神経細胞はシナプスと呼ばれる構造で互いに連絡し合い、脳内に神経回路を構成している。しかし、その構造は1µm以下と小さく、従来の光学顕微鏡でその詳細を観察することは困難。また、近年、光の回折限界[3]を超える分解能を持つ超解像顕微鏡が開発されているが、厚みのある生体試料深部を観察することは困難である。
 2013年に感覚神経回路形成研究チームは、ハチミツや果物などに多く含まれるフルクトース(果糖)を用いて生体組織の微細構造を保ったまま透明化する試薬「SeeDB を開発した。今回、共同研究グループはX線造影剤の成分として知られる「イオヘキソール」を用いることでこの方法を改良し、高解像イメージングのための透明化試薬SeeDB2を開発した。SeeDB2は屈折率が高く、顕微鏡観察に用いるカバーガラスおよび対物レンズ浸液として用いるオイルの屈折率と完全に一致するため、深部でも画像がぼけることなく鮮明に観察できる。実際にSeeDB2で処理したマウス脳、ショウジョウバエ脳、卵母細胞、培養細胞など、さまざまな試料を共焦点顕微鏡や超解像顕微鏡を用いて観察し、100μmを超える深部まで高解像画像が得られた。また、従来観察することが難しかったシナプスの微細構造を大規模かつ3次元的に捉え、定量解析することに成功した。
 この手法は、脳の神経回路図をシナプスレベルで解明する研究に役立つと期待できる。また、多くの精神疾患は神経細胞のシナプス構造に異常があるといわれており、将来的には精神疾患の病態やメカニズムの解明にも貢献すると期待できる。